FC2ブログ

ゴルトベルク変奏曲解説 その4 (1/20プログラムより)

前回の続きです。

3)カノン(Canon)について
カエルの歌である。輪唱(りんしょう)。一人がある旋律を歌い始めると、もう一も遅れて同じ旋律を歌い始める。旋律がずれていても調和が保たれながら音楽が進行していくように作曲するのは難しい。カエルの歌はドレミファミレド。それを追いかけるのもドレミファミレド。同じ音から追いかけるのを同度のカノンという。
ゴルトベルク変奏曲には第3変奏、第6変奏・・・という風に3の倍数の番号にカノンが登場する。全部で9つ。
第3変奏は、シ~ドレドレミと始まると、もう一方がシ~ドレドレミと追いかける同度のカノンである。
第6変奏は、ソ~ファミレドと始まると、ラ~ソファミレと追いかける。始まる音が一つ上(2度上という)からなのである。これを2度のカノンという。調和を保つのが難しいので始まる旋律の設定がとても難しくなる。
第9変奏は、シラシドと始まると、ソファソラと3つ下の音で追いかける。これは3度のカノン。ますます作曲するのが難しい!嗚呼・・・
以下、カノンが登場する度に4度、5度と拡がって行き作曲するのも演奏するのも難しくなっていく。
そして本来なら第30変奏が10度のカノンになるはずだが、バッハはあえてそれを回避。クォドリベットという民謡を重ね合わせる遊ぶ音楽にした。その民謡とは「長い間会わなかったな、さあおいで」と「キャベツとカブに追い出された。母さんが肉でも出してくれたらもっと長居したのになあ」という歌詞。(第30変奏に出る旋律に)長い間あわなかったのは、キャベツとカブ(それまでの29の変奏のこと)に追い出さていたからであり、ようやくここで会えましたね!というユーモアを交えて30の変奏が閉じられる。
ちなみに一番有名なカノンはパッヘルベルのそれだろう。パッヘルベルはバッハのお兄さんの先生だったこともある。

4)バッハが要求する名人芸。
バッハは2段鍵盤を有する楽器のためにこの曲を作曲した。各変奏の冒頭に1段用、2段用、1段または2段用と楽譜に指定している。2段用は名人芸的要素が強い。左手の右手の激しい交差が頻出するからである。こんにちのピアノは鍵盤は1段しかない。よって手の交差を上手く処理しないと交通事故が起こってしまう。これを解決するには幾つかの音の取り消し=省略や、音符を指定の長さより短く奏する必要性に迫られる。どちらにせよ、そうした舞台裏を見せないように(あたかも省略がわからないように)演奏するのも芸のうちとなる。


5)後世への影響
ベートーヴェンの師ネーフェはバッハに知悉した音楽家だった。ベートーヴェンはゴルトベルク変奏曲の存在もネーフェを通じて知っていたと思われる。またはベートーヴェンがウィーンで世話になったスヴィーデン伯爵はバッハの自筆譜も所有しているほどだったからここから知ったのかもしれない。
ゴルトベルク変奏曲の第28変奏とベートーヴェンのピアノソナタ第30番の変奏曲楽章の一部分を比べてみて欲しい。

6)ゴルトベルク変奏曲が意味するもの
次第に度数が拡がっていくカノンを9つ書く作曲技術を示し、左手と右手の交差の名人芸(第20変奏等)を示し、変奏の大いなる可能性を示唆し、喜びに満ちた変奏(第1変奏等)、哀しみの変奏(第15変奏等)、嘆きの変奏(第25変奏)、祈りの変奏(第22変奏等)、イタリア的要素(第15変奏等)、フランス的要素(第16変奏等)、宗教的要素(第25変奏)、世俗的要素(第30変奏)、数学的構成、これらを32曲に盛り込んだ百科事典的音楽、これがゴルトベルク変奏曲だと思う。

おしまい


スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する